
三重県の東南部に位置する、志摩市大王町波切(なきり)。波切漁港があり漁師町として栄えてきました。太平洋の荒波が打ち付ける岸壁に立つ「大王埼(だいおうさき)灯台」やレトロな雰囲気が残る穏やかな漁師町は多くのアーティストを魅了する「絵描きのまち」として有名です。


今回はこの町で生まれ育った、「まるいひもの店」の3代目・坂中信介さんに波切の歴史や地域活動について伺いました。

漁港と観光でにぎわった波切
波切には古い歴史を持つ「波切漁港」があります。大正から昭和にはカツオ漁をはじめ沿岸漁業が盛んに行われたことから多くの漁船と漁師を受け入れてきました。当時は銭湯が3軒、映画館などもあり、おおいに賑わっていたそう。
その漁港が目の前にある、まるいひもの店。その建物は、もともと明治27年に銀行として建てられました。銀行から歯医者になり、そして坂中さんの祖父が購入して、干物屋として生まれ変わりました。
「最初は定置網の漁業をやっていたそうですが、当時はイワシなどの小さな魚は大量に獲れても、1キロあたり3〜5円くらいの安い値段にしかならなかった。養殖の餌にはなるけど大きな儲けにはならないし、捨ててしまうのはもったいない。それなら自分たちで加工して付加価値を付けて売ろうよって、干物屋さんになったそうです」



昭和には大王埼灯台を目的に、多くの観光客が波切を訪れました。
「僕が小さいころの旅行形態はバスツアーが多かったんです。この町にも、たくさんの観光バスで団体の観光客がやってきました。ここの通りが人でいっぱいになるんですよ。自転車で友達の家に行こうとしても通れないぐらい人がいました」

「便利じゃないけど穏やか」なありのままを磨いて
多くの人で賑わっていた波切ですが、近年は観光客が減少。土産物店などは大きな影響を受け、観光地であり住民がいた灯台周辺もシャッターを閉じたままの建物や空き家が増えていきました。


坂中さんたち現役世代の住民は、観光客を取り戻そうと清掃活動から始めます。
「空き家は放っておくと崩れてしまいますし、シャッターは潮風のせいでボロボロに劣化して外れるし、さらにそれがバタバタ煽られて狭い道を塞いでしまう。観光地なのに汚れや危険がある状態になっていては、商売をさせてもらっているのに申し訳ないと思いました。気持ちよく観光してもらうためにも『きれいにせんとね』ってところが清掃活動の出発点です」


大王埼灯台のほど近くにある八幡さん公園。坂中さんたちは、この公園から望む海の景観を維持するため、柵の外の草を刈る清掃活動を年に3回ほど行っています。もとからあるものをきれいに保つこと。それは波切のありのままの魅力を磨き上げていくことにもつながると言います。
「今あるこの町の魅力を、精査してきちんと磨き上げていく、現状をいいふうに見せる。昔ながらの、便利ではないけど穏やかな雰囲気が波切のいいところだと思います」



「いつかはまた波切で」。思い出をきっかけに
最近では、空き家や使われなくなった漁の道具を活用してお店が開店するなど、昔ながらのまち並みを大切にしながら新しいものを取り入れる動きも活発になっています。


まるいひもの店と同じ通りにある「じゃまテラス」も、元はシャッターが下りっぱなしになっていた空き家。地域活性化に向けた実証実験のひとつで、当初は期間限定の予定でしたが坂中さんたちの「シャッターを下ろす状態を減らしたい」という思いで継続をしています。


縁日の屋台で見るようなおもちゃのカプセルトイが並ぶ中に、志摩名産・真珠を使ったご当地アイテムも並びます。そのお値段は500円玉1〜2枚とリーズナブル。
「真珠に興味があっても、高価であることやお店に入って店員さんと会話しながら商品を見て……というのが若い方にとってハードルが高いと思います。カプセルトイなら気軽ですし、『波切ですてきな真珠が買えた』って思ってもらえるきっかけになれば」

「良心市」という土産物販売スペースの名前の由来。「良心的な価格」というところからきているのかと思いきや、無人の販売スペースを利用するお客さんの良心に委ねる、というみんなでおもしろおかしく考えた「性善説」。「観光に来てまで悪いことしようっていう人はいないでしょ?」と笑顔の坂中さん。

美術の教員免許を持つ坂中さんは、美術の教員を目指す大学生と美術を学ぶ中高生をマッチングさせて合宿をする「NEXT TEACHER AND STUDENT」を実施。学生を招き、波切で創作活動をしてもらいました。
「学生たちが教員になった時、この合宿に参加したことを思い出して、波切で美術合宿をやってもらえたらうれしいですね」




最近は、波切への移住者も増えつつあります。長い間、沿岸漁業の漁師、観光客と多くの人々を受け入れてきた波切の地域住民は、移住者に対しても「ウェルカム」な感じで関わっているそう。
「昔からいろんな人が入れ変わり立ち変わりしてきたから、波切の人はよそから来た人に抵抗があまりないのかな。『漁師町の人はよその人に厳しい』ってイメージがある人もいるかもしれませんけど、むしろ『あれ食べろ、これ食べろ』っておせっかい焼いたりする人が多いですね」
絵描きのまちで、あなただけの風景を探して
「地元住民ならではの波切の見所」を聞いてみると「波切全体をひとつのアミューズメントパークのように楽しんでいただきたい」と、坂中さん。
「おすすめスポットとか、ピンポイントで紹介はしていないんです。町を見る位置や角度、その人の意識によって見所は人それぞれ。でも、どこを切り取っても絵になるんですよ。やっぱり『絵描きのまち』ですから」


海と緑、そして人の温かさにあふれたこの町は、コンパクトでありながらさまざまな見どころがちりばめられています。ひとりで何度も遊びに行ってみたり、家族や友人と発見をシェアしてみたりすると、新しい風景が見つかるかもしれません。ぜひ波切で、あなただけの風景を見つけてみてくださいね。
ライフ・テクノサービス広報担当。LTSブログも更新しています。推しがジャンルごとにいます(担当色が緑か青に偏りがち)。





