
老年だったあの人と、若かった私の風変わりな思い出たち。
tayutaiはいろんな人が執筆する、思い出のコラムです。
10年ほど前に亡くなったおばあちゃんの思い出といえば、タバコの「セブンスター」です。家事の合間にテレビを観ながら、少しけだるそうにタバコをくゆらせている姿が脳裏に焼き付いています。まさに「タバコを飲む」という表現がぴったりな光景でした。
小学生のころ、おばあちゃんの目を盗んでタバコを一本拝借し、興味本位でライターで火をつけて恐る恐る煙を一口吸い込んだら、盛大にむせた経験があります。これは、喫煙者の大人たちに囲まれて育った昭和生まれの子供にはありがちな話ではないでしょうか。私は、おばあちゃんが吐き出す白いタバコの煙で輪っかを作ってくれるのが好きで、よくせがんでいました。令和の今では、子供の前でタバコを吸うだけで大ブーイングを受けること必至ですから、昭和らしいおおらかな一幕だったといえます。
ちなみに、私は非喫煙者で先述の好奇心からの一度きりの体験を除いては、タバコに触れることすらも稀でした。そんな私がセブンスターと別の形で再会したのは、高校生の時(1990年代後半)。背伸びをしたい年頃の同級生が「お前、何吸ってる?」「俺はセッターだけど、ちょっとクラクラする」という会話をしていました。セッターと言われてもピンとこなかったのですが、彼がカバンから取り出した、白地に無数の小さな星がちりばめられたパッケージを見て「あ! おばあちゃんのやつだ!」と妙に嬉しくなったのを覚えています。そして同時に、「あのタバコってきつかったんだ」と感心したことも、今でも鮮明に記憶に残っています。
それからしばらく時が流れ、再びセブンスターと出会ったのは、2000年に椎名林檎が発表した『罪と罰』という曲の歌詞でした。同じ時期に、女性に絶大な人気を誇っていた漫画『NANA』でも、主人公の一人である大崎ナナがセブンスターを吸うシーンが描かれています。いつの間にか、セブンスターはロックでかっこいい女性を象徴するアイテムになっていたのです。年季の入ったセブンスター愛好家だったおばあちゃんも、ある意味では彼女たちに負けず劣らず、我が道を行くロックな一面を持った女性でした。
家庭や公共の場からタバコの煙が消え、非喫煙者にとっては随分暮らしやすい世の中になりました。高校時代に背伸びをしていた友人たちも、健康への配慮や家族からのクレーム、お小遣いを圧迫する値上げなどの理由で、今ではほとんどが非喫煙者になっています。
ちなみに、おばあちゃんは86歳で介護施設で亡くなりましたが、入所する直前までセブンスターを楽しんでいたそうです。天国では、誰に気兼ねすることもなく、毎日大好きなセブンスターを味わっていることでしょう。空に漂う真っ白な雲の一部は、きっとおばあちゃんが吐き出した煙に違いありません。

寄稿者:Rally
渋谷系、戦国武将、徒歩旅をこよなく愛するミドフォー男性。
推しバンド(ユニット)=ペンギンラッシュ、Showmore、アンニュイ・ホリデイ。
推し戦国武将=藤堂高虎、佐久間盛政、水野勝成。
推し国道=163号、165号、306号。
新聞記事を書いたり、結婚したい人のお手伝いをすることを生業にしています。

少子高齢化や人口減少、そしてデジタル化がすすんでいるのに、自分たちが暮らすまちのことはあまり知らない。ふと我に返ったとき、むかし祖母に聞いたまちの想い出話を、無意識に思い返していた。
そうだ、きっと自分が暮らすまちに誇りを持てていなかったんだ。ならば人生の先輩方に聞けばいい。まちにとって想い出はなにより大切な資産だと思うから。
自分が暮らすまちが少しだけ好きになるように「とつとつ」と語っていきます。お付き合いいただければ幸いです。