遊び場だった田んぼ、川、神社

生まれたのは名張市瀬古口というところ。旧町から川を挟んだ向こうの農村部の生まれになります。農村部は国道ができてからチェーン展開されたお店が多いんですが、旧町は藤堂高虎の息子さんの陣屋(じんや)がありまして、城下町の雰囲気がかなり残ってます。だから、名張ってなんでも揃う(新しいお店も古い町並みもある)よ、みたいな。

陣屋…兵士が臨時に駐屯する軍営

小さいころ、遊んでいたのは田んぼと名張川。プールなんて行ってないです。川で泳いでました。魚釣りしたし、ナマズにしかけしてみたりザリガニも取ったり。

あと遊ぶところは、「稲荷神社」ですね。立派な神社です。遊んでいた川が神社の目の前にあって、そこが子どもの遊び場になってるんです。約束しなくてもその時間になると子どもたちで集まって遊んでました。三角ベース(野球)とか、屋根の上にボールを投げて落ちてくるのを名前を呼ばれたやつが取らないといけない、みたいな遊びをやってました。その遊びの延長で、ボールを取ったら鬼を交代する鬼ごっこもやってました。

地元愛を深めたお祭

神社の行事には祇園祭や秋祭りがありますね。秋祭りには獅子舞が出てて、僕も保存会にいました。獅子舞は秋祭りに欠かせないんですけど、僕が保存会にいたころは、後継者がいないんで若者をできるだけ集めて頑張ろうっていう時期でした。今は若い人たちがちゃんと維持してくれてます。

お祭りには小さい時から参加していますよ。覚えてるのは、子どもは獅子舞に入れなくて、「子ども神輿(みこし)」も小学生からでないとダメだったと思います。重くて重くてしょうがなかったけど、立派なおみこしでしたね。僕は稲荷神社の氏子なんで、小さい時から稲荷神社はすごい大事な場所です。お神輿を担ぐことによって「お祭りに参加してる」って感じてました。

それに、お祭りに参加すると高齢の方ともすごい交流するんですよね。瀬古口では顔を見たら「どこの家の子や」「ここの家のおっちゃん」っていうのがわかる。コミュニケーションが今と違ってすごく濃くて、そこに住んでいる人たちを知っていて、顔が思い浮かぶ。それが地元愛なのかなって、最近思うようになりました。

若い時はわからなかったですけど、お祭りだとか草刈りの作業であったり、消防の避難訓練であったり、そういうみんなが参加するイベントっていうのは、「あのおじいちゃん亡くなったよ」とか「赤ちゃんできたよ」とか、地域のことを確認できる時。続けていくと、その地域のコミュニティが維持できるのかなと、僕なりには考えますね。

厳しくて温かい、地元のお客さん

今は名張市中町にある古民家レストラン「オステリアCiao(チャオ)」さんのプロデュースをしていますが、僕ががんになるまでは名張市元町でレストラン「京風イタリアンらんぽ」をしていました。

もともと、京都の大学を中退して京都や東京でレストランで調理人をやってて、忙しくて10年ぐらい地元に帰ってきてなかったんです。

名張に帰ってきたきっかけは、母が亡くなるとき、僕に「京都じゃなくて、名張でお店しないか」って言い残したこと。それで、「地元に帰って、根を張るのもいいな」と自分のお店をオープンしました。

お店を始めたら、小さい時から知ってる人たちがお客さんとして来て、どんどん予約を入れてくれたんです。地元のみんながチャンスを与えてくれて、ありがたいことに宣伝広告一切なしで、オープンから3ヶ月くらいで半年以上先の予約しか取れない店になったんです。

でも、お客さんとして来てくれる地元の人にはだいたい怒られるんですよ(笑) 上の年代の方はみなさん、僕の保護者みたいなもんなので、「家を放って京都から帰ってこおへんかった」とか「もっと早く帰ってこい」とか。でも目をかけてくださる、声をかけてくださるっていうのは、やっぱりありがたいです。京都でそういうこと言ってくれる人はひとりもいなかったので、こっち帰ってくると、おせっかいじゃないですけど気にかけてくれてるのが嬉しかったですね。どうでもいい人には怒んないでしょ。なにか言いたいってことはまだ、どっかにかわいがってる気持ちを持ってくれている。だから「厳しい=温かい」と思ってて。思ってることをはっきり言える場所、名張っていいとこだなって。

「あのころのおせっかい」を忘れないために

旧町にも空き家が増えてきてますけど、僕は旧町の素晴らしい風景を残したいと思っています。2軒の建物が連なってできた生活道路のような間を「ひやわい」って言うんですけど、これ名張独特なんですよ。

1軒でも壊しちゃったらひやわいじゃなくなるんですよね。ひやわいを作る片方の建物にはまだ人がいらっしゃるけど、中町カラーズというもう片方の建物には着物屋さん、レストラン、蔵のバーが入ってもらうことで維持しています。

2軒の建物が連なってできた間「ひやわい」。

着物屋さんの「FIRST POND」。ユーズド着物を中心に、和風小物やレトロな古着を販売。

レストランの「オステリアCiao」。取材時はオープンに向けて改装中。右下の大きな四角い石に見えるのは井戸。

蔵を改装したバー、「隠れ蔵 雅(みやび)」。2階には雰囲気のある梁(はり)。

景色がつくるコミュニティっていうのもあると思って。新しいものは新しいものでいい。でも、新しいものばっかりだと前に何があったかも忘れちゃう。僕みたいに都会に行った人が帰ってきた時、町がすっかり変わってたら、ちょっと寂しいじゃないですか。町の特性がなくなるようで、人間形成もちょっとずれてくると思うし、僕たちが子どものころ味わったおせっかいだとかコミュニティもなくなっちゃう気がします。

だから、残せるものは残して活用していこうと思って活動しています。変わったものもあるけど残ってるものもあるっていうのが、僕が思い描く未来の景色なのかな。

ひやわいを通ってみると、思いのほか明るい。

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