若くして引き継いだ伝統工芸
「伊賀くみひも」が栄えたのは、農閑期に働き手が余っていたことにありますね。昔の伊賀はほとんど農家で、地域の外に働きに出なかったんです。それに、伊賀の人は忍耐強いので、細かな仕事でもコツコツとやるからだと思います。
僕は、高校を卒業してから2年ほど、同業者のところへ見習いでお邪魔していました。21、2歳くらいからはずっと実家で、今度は親父とお袋が先生になっていろいろな技術を習得したんです。
両親に習い始めた頃は組紐の柄の出し方を教わったり、見よう見真似で糸の叩き方とかを研究したりしました。
それで私が25歳の時に、親父からぼちぼち家業を引き継ぎ始めて、正式に引き継いだのは28歳のとき。親父が元気なうちに引き継いだんです。
「綾書き(あやがき)」って柄の設計図があって、私の親の時代は太く組んだ紐に絵を描いて、そこを虫眼鏡で見て目を数えて作っていたんです。でも、虫眼鏡で見ていると、どこを数えているのか分からなくなってくるんですよ。今はグラフの表を紙に印刷して、塗りつぶして綾書きを作っています。使っている物が変わっただけで、やっていることは今も昔も同じなんですけどね。
組紐の魅力を引き出す、根気のいる仕事
伊賀くみひもの製品にはネクタイもあるけど、これを作り始めたのは親父です。
親父は10歳の時に両親が亡くなってますので、組紐の組み方は自分の親である初代徳三郎からではなく、初代徳三郎が教えた京都のおじや親戚の人とかに教わった。親父が伊賀に帰ってきた頃はたくさん組紐屋さんがあって、そこで帯締めや角帯を出したら(店同士で商品が)バッティングしますやん。皆さんの売上の邪魔してもいかんので変わったものを作ろうということで、うちの親父は研究して組紐のネクタイを作ったんですよ。
通常通りに組んでいくと厚みが出て結びにくくなるし、機械みたいにジャーッと縫って組み合わせるんじゃないので、作られるのは大体1日1本ですね。ネクタイって組紐で作ると意外と難しいんですよ。
デザインしたりとか経尺(へいじゃく・糸の長さや太さを整える作業)とか売りに行ったりとか、全部1人でやるんです。
見本展※っていうのがあって、年間で10点くらい作るとしたら、そのうちの3点くらいしか採用されないんですよ。いろんな柄を考えて毎年作っていく。それが採用されていくと、割と張り合いっていうのが出てきますね。
柄は、着物の雑誌を見ながら表現の仕方を考えます。菊でも、大きい菊か斜めに見た菊かでいろいろ表現が変わってきますから、そこから「ここにぼかしをしたらいい」とか、あるいは「ここに何色か多色使いをしたらいい」とかいうことを自分で研究しながら作っていきます。
※見本の品を展示して商談を行う催し
組紐に柄を出す中で、ネクタイの結んで見えなくなる部分は柄がいらないんですけど、飾った時に寂しいので入れたりします。商品として並べたり飾るときに、きちっと柄がうまく見えるようにって考えながらね。付けてもらうときだけじゃなく、手に取ってもらうためにも考えています。
なんせ組紐は幅が狭いものですから、そこに表現するのが大変なんですよね。「松に鶴」なら組紐の中だけで「飛んでる鶴」「松」って表現をしていかないといけない。それから、場所によって向きを変えて柄を出している。そうしないと結んだとき、真っ直ぐ揃わないんです。
あと、丸。まんまるを描くのがたいへん難しくて。細い組紐の中でまんまるを描こうと思ったら小さい丸になるんですよ。「丸の柄がある綾書きを作った」って1回組んでみて、「ここの丸みが足りないな」と思ったら1回直して丸みをつけて、また組んでみてって、1回ではきちっと仕上がらないんですよ。まぁ根気のいる仕事ですわ。
変化を受け入れ、磨き続ける技
コロナの時期くらいから外に行けなくて、問屋さんに材料の注文するのも電話だけになった。それで時間ができたからやっと落ち着いて紐を組めるようになったかな。
今、普段は組めないような柄を組んでるんですよ。昔よく組んでた柄を組んで、後世に残していこうかなと思って。もう今5、60本組んであるんです。
昔の柄ってだいたい花柄が多いんですよ。着物を見てもらっても、だいたいは花柄でしょ。時代が変わっても、柄はそのまま生かせるんです。ただ、色合いは流行がありますのでいろいろ変わってくるんですけど、基本は5色(青・赤・黄・白・黒)。歌舞伎でもよく使われているような色ですね。それが基本になって薄いか濃いか、明るいか暗いかで使い分けます。
最近は、洋装になってきて着物離れというか、お茶をやるとか成人式であるとか、そういう催しに着るような「貴重な着物」になってます。だから、組紐がよく使われる帯締めもそれに対応していくように質が高いものを作っていかないといけない。
帯締めは帯が緩まんようにするための紐なんです。ですから、まずはデザインは後回しで、一番大事なところはしっかりと縛ってくれる紐でないといけない。固くてもいかんし、柔らかくてもいかん。そういう組紐を作るにはどうしたらいいかというと、やっぱり熟練なんです。初めからきれいに組めるわけではないし、初めからそういう味を出せないから、熟練でやっていくんですよ。
ライフ・テクノサービス広報担当。LTSブログも更新しています。推しがジャンルごとにいます(担当色が緑か青に偏りがち)。