2025年9月で3周年を迎えた「totutotu(とつとつ)」。介護福祉を行う株式会社ライフ・テクノサービス(LTS)が運営する地域WEBメディアとして、2023年にスタート。2025年9月で3周年を迎えました。これまで三重県内の様々な方にお話をお伺いし、公開した記事は91本にのぼります。(2025年10月現在)

その一方で、まだまだtotutotuのことを地域のみなさんに知ってもらえていないという課題も。

なぜ介護福祉の会社がWEBメディアを運営しているの?

コンセプトの「暮らしたいまちをつくる」って?

3周年の節目に、改めて編集部のメンバーで語りました。

「暮らしたいまちをつくる」に込められた想い

——totutotuはどのように生まれたのでしょうか。

村山:メディアを運営するライフ・テクノサービスの社長とは同世代。立ち上げの2年前から、介護福祉の世界の見え方を変えるにはどうしたらいいか、と相談を受けていました。福祉の仕事は「きつい」というイメージを持たれていますが、本当は奥深い仕事です。表面的な見え方だけを変えても、本質的ではないのかなって。人口減少や高齢化など業界を取り巻く状況が厳しい中、地方で福祉事業をやる意義をなんだろうと、議論していきました。

ディレクターの村山祐介

村山:社長と話をする中で、何度も口にされたのが「暮らしたいまちをつくる」という言葉でした。多くの介護施設は山の中にあるのですが、ライフ・テクノサービスはまちの中に施設を置いています。それは高齢者が元の生活の延長線上で暮らせるようにと考えてのこと。街中であれば、親族やお友達も会いに来やすいよねって。経営的に見るとコスト増ですが、入居者のことを考えて事業を運営しているのだと、心に残りました。

でも、「暮らしたいまちをつくる」って壮大すぎて、ピンと来ない(笑)。それって行政の役割じゃないの?なぜ介護福祉の会社がまちづくりをするの?という話をしましたね。

——たしかに、壮大なビジョンゆえ、何から始めたらいいかわからなくなりそうです。

村山:私は津の生まれですが、新興住宅で育ったので地域との関わりも薄かった。でも「OTONAMIE」の取材で、県内各地を訪れると、特に伊勢のあたりは地元が大好きで誇りを持っておられる方が多くいました。自分が住んでいる地域に対する誇りはどう育まれるのかというと、歴史や文化を継承できる環境があり、観光地でもある。幼い頃から伊勢はいいところだと言われてきたからなんだろうと思ったんです。

「暮らしたいまちをつくる」ためには、地域のことを知ることがスタートで、地域のことを知っている人が増えるほど、暮らしたいまちになっていく。そんな考えから、このプロジェクトが始まりました。

あえて社員中心でメディアを運営する

——そこから2023年にWEBメディア「totutotu」をリリースし、社員のみなさんとともに運営されることになったんですね。

村山:WEBメディアという形態にした理由は、SNSと違って情報の蓄積ができるから。社員のみなさんと話をしながら、あえて旬の情報ではなく、地域の思い出を共有し、まちの記憶を紡いでいくメディアにすることにしました。

長岡:最初、社長から呼び出された時は、「次はなんだろう」と思いました。社長は次々と新しいアイデアが出てくる方なんです(笑)。「暮らしたいまちをつくる」プロジェクトと名付けられた資料を見せてもらって、WEBメディアを始めると聞いたときは驚いたのですが、文章を読んだりするのは好きなので、「面白そう、やってみたい」と思いました。

副編集長の長岡奈央

山崎:そうそう、資料を読んでみても最初はよくわからなくて……。でも、やりながら地域のことを知っていける、関われるんだなというのは理解できて、楽しみになりましたね。

編集部員の山崎楓子

村山:初めは記事のクオリティを上げるために、外部ライターに依頼することも考えました。でも、ディレクションをするだけでなく、社員が自ら取材や執筆をすることで地域のことを知る面白さに気付けるかもしれないなと。一年の準備期間を設けて記事の書き方講座などをして、スキルを身につけてもらいました。

初めは乗り気じゃなかった人もいると思いますが、今ではみんながネタ出しや記事制作にも積極的に関わってくれ、僕たちの視点とは違った面白い記事を書いてくれるようになりましたね。

totutotuを構成する4つのコンテンツ

——WEBには「tuduri」「pride」「locoyan」「tayutai」の4つのコンテンツがあります。これらはどのようにして決まったのでしょうか。

村山:まちの記憶とはどんなものかを掘り下げてみて、おじいさん・おばあさんが地域で過ごした記憶を紹介したら面白いのではないかという話になりました。今は、高齢者と若者の交流が少なくなり、三重でも地域固有の言葉が失われつつあります。まずは、話を聞いてその人の話す言葉を残しながら書く「聞き書き」をすることにしました。そうして生まれたのが「tuduri」です。

地域の方が、昔のことを思い出しながらとつとつと話す様子をイメージして「totutotu」というネーミングに決まった

村山:「pride」は介護福祉の仕事のイメージをより良くしたい、プライドを持って働いていることを伝えたいと、編集部のみなさんから提案があり始めました。これは社外からの視点で伝えたいと、外部のライターとカメラマンで制作しています。

「locoyan」では、地域で暮らす方にまちを案内をしてもらい、まちのディープな魅力を紹介しています。メディアとして地域との関わりもつくるために生まれたコンテンツです。

村山:「tayutai」はリリースから一年後に始めたコンテンツです。3つのコンテンツが軌道に乗り、次の展開を考えた時に、社内外色々な人に関わってもらえるメディアにしたいねという話になり、寄稿文を募集することにしました。書き方も文字数もフリースタイル。決まっているのは、高齢者との思い出であることだけです。

長岡:うちの部長も「バイバイばあちゃん」というコラムを寄稿してくれました。山崎さんが書いた「おばあちゃんのリンゴはネギの味」も面白かったですね。そういうことあるよねってみんなで盛り上がりました。

山崎:「tayutai」のアイキャッチ画像はイラストなのですが、実は私が描かせてもらっているんです。

山崎さんが描くtayutaiのアイキャッチ画像

村山:tayutaiの世界観に山崎さんの絵があうなと思い、お願いしました。ほっこりしますよね。

聴いて、書いて変わってきたこと

——会社としての運営なので、もちろんメンバーの入れ替わりもありますよね。途中から編集部に入られた方は、totutotuに関わることをどう捉えていますか。

橋本:私は2023年に新卒で入社して、2024年から編集部に加わりました。まさか文章を書くことになるとは思ってもいませんでした。途中から加わったので、不慣れなことも多く、今も必死です。

編集部員の橋本ひなた

:私は今年の1月に中途入社して、9月から編集部員になりました。面接の際に、人事部に配属になったらWEBメディアに関わる業務もあると聞いてはいましたが、まさか自分が制作側になるとは(笑)。これまで人に見せるような文章を書いたことがないので、私にもできるだろうかと不安ばかりです。

編集部員の林優梨

——実際に記事を作ってみていかがですか。

橋本:大変なこともありますが、だんだん楽しめるようになってきました。大きな変化としては、文章を書くことの苦手意識がなくなりました。インタビュー慣れしてきたからか、人前に立つ際も臆することなく話せるようにもなりましたね。

:まだ一度しか取材へ行けていませんが、書くことを前提に話を聴くことの難しさを感じています。聴き方ってすごく大事ですね。人事として面接をさせてもらう際、強みや人となりの背景を知ろうと色々な質問をするのですが、それと似ているなと思って。どういう聴き方をしたら相手が答えやすいのか、仕事でも意識するようになりました。

橋本:私も新卒採用を担当する中で、学生と話す機会がありますが、どうしたら質問に対して答えやすいかなと考えるようになりましたね。

:面接で私以外の人の質問の仕方も意識するようになり、◯◯さんはこういう聴き方をするから求職者のことを詳しく知れるんだな、と気付ける機会にもなりました。

取材から生まれた出会いやその後

——これまでたくさんの記事を作られてきましたが、印象に残っている記事はありますか。

山崎:うちの施設に入居されている方を取材したんですが、記事の掲載後に職員からその方が亡くなられたと聞いたんです。亡くなられたときにご家族から、「記事に使ってもらった写真の笑顔がすごく良かったから遺影にしたい」と職員へ依頼があったそうで、使っていただいたんです。ご家族にとっても、施設の職員にとってもいい思い出になったようです。誰かの記憶を編集するってこういうことなのかも。

山崎:ご夫婦で取材させていただいた記事も心に残っています。取材後にそれぞれ別の施設に入居されました。一緒に居られなくなり寂しい思いをしていると思うんですが、「あの時に取材してもらっておいて良かった」と言ってもらえました。その時、そのタイミングでしか聴けないことってあるんだなと思いました。

長岡:私は、取材を通した関わりが心に残っています。会社のすぐ近くにお住まいの方に勇気を出して取材を申し込んだら、とても面白いお話を聴くことができました。その後も、通勤時に挨拶をするなど関わりを持てているのが嬉しいです。

橋本:私は四日市の呉服屋さんのお話ですね。ご自身の苦労を語ってくださった後に、「世知辛い世の中だけど、自分のことばかり考えずに、誰かが悲しんでいる時は寄り添う心を持つことが大事だよ」とおっしゃって、ハッとさせられました。

これからのまちをつくるのは私たち

——記事を通して、たくさんの出会いや学びが生まれていることがわかりました。最後に、これから取り組みたいことや挑戦したことを教えてください。

長岡:totutotuが大切にしたいのは、関わる人の数が増えること、関係性が深まっていくことです。体制はできたので、3年目以降はそうしたことに重点を置いて取り組みたいですね。

橋本:新卒採用をしていると、「pride」を読んでくれている学生が増えてきました。だから、もっと福祉用具専門相談員(営業職)や介護福祉の仕事の魅力が伝わるようにしたいです。

:私にとって暮らしたいまちとは、子どもが笑って暮らせるまち。取材で様々な方のお話を聞いて、子どもに地元の魅力を伝えたいです。

山崎:津に生まれ育ちましたが、取材をすると知らないお店や場所がたくさんあることに気づき、まちの解像度があがりました。弊社の拠点がある地域に関わらず県全域に活動範囲を広げてお話を聴いて、まちに愛着をもつ方を増やしていきたいです。そして、メディアの運営に関わってくれる人が増えるといいですね。「tayutai」の書き手も随時募集しています!

村山:介護福祉の仕事をするだけではなく、まちをつくることが自分たちの仕事であると、ライフ・テクノサービスは考えています。まちをつくるには、ある程度の規模感が必要。ライフ・テクノサービスのように、県内各地に拠点があるからこそできることがあります。実はWEBメディアの運営は、「暮らしたいまちをつくる」プロジェクトのスタート地点。その後も様々な展開を描いていますので、それらも視野に入れながら、これからも編集部のみなさんと、地域の記憶を編集していきたいです。

未来をつくるのは今を生きる私たち。子どもや孫の世代にどんなまちの風景を残していきたいのかを考えながら、これからも一歩ずつ進んでいくtotutotuのこれからも楽しみです。3年目を迎えたtotutotuも、みなさんよろしくお願いします!

執筆:北川由依

撮影:井村義次